さとうしょうこの地魚と醤油の旅

豊前海一粒かき×松中醤油

明治時代に創業した小倉南区中曽根の『松中醤油本店』は老舗の醤油蔵。歴史ある蔵に料理研究家・佐藤彰子先生が訪ね、今回は完全無添加『曽根の紫露(そねのしずく)』を使った『豊前海一粒かき』の醤油焼を紹介します。

醤油、バター、酒で味付けした『カキのうま醤油焼』。シンプルだからこそ抜群に旨い
完全無添加の『曽根の紫露』(585円/150ml)。九州醤油独特のまろやかな甘みが持ち味の『優撰』(420円/1L)。この味で育った人も多い
《松中醤油本店》 所:北九州市小倉南区中曽根東1-6-1 電:093-471-7010
https://www.matsunaka.co.jp/
大豆を蒸す巨大な鉄製の釜。松中さんが生まれた時からあるという年代物の機械
諸味を貯蔵する熟成槽。醪をかくはんし、発酵を促す「かい入れ」は大切な作業だ
のんびりと時がゆったり流れるようなノスタルジックな風景
殻つきの瑞々しく旨味の高い『豊前海一粒かき』はとっておきの醤油で食べたい

カキと醤油が出合い、互いの旨味を高め合う

曽根干潟のすぐ近く。多くのトラックが行き交う県道から市街地に入った一画に、タイムスリップしたかのような風情の中に『松中醤油本店』が現れる。そこには古い書体で「マツナカ醤油」と書かれた大きな看板。迎えてくれたのは代表の松中新治さん。明治27年、初代当主・松中辰之助が創業して4代目を数える。「創業当時からの建物に手を入れながら使っています。蔵独自の麹菌が住み着いていて、この麹菌こそがうちの味ですから」。よく眺めてみると、梁や柱はもちろん、無造作に置かれた道具からも長い時の流れを感じさせる。

「私たちの醤油造りは、創業以来、何一つ変えることなく「天然醸造」で行なっています。春夏秋冬の自然な温度変化に寄り添って醸造するため、2年以上の熟成期間が必要です」。冬に仕込んだ諸味は、暑い夏には元気に発酵。麹菌や酵母、乳酸菌の働きで更に熟成させることで、醤油特有の香りや味が深まっていく。

数ある商品の中でも、特別な醤油があるという。大豆と小麦・塩だけで作った本醸造・完全無添加の濃口醤油『曽根の紫露』だ。長期熟成した諸味をしぼり、火入れをしただけの醤油の原点ともいうべき一本である。「無添加にこだわるため、九州ならではの甘みも加えていません。かつて各家庭で手作りしていた時代の醤油に近い味です」と松中さんは胸を張る。

試してみると、コクがあるのにすっきりとした味わい。これは『豊前海一粒かき』特有の、ぷりっとした食感とまろやかな口当たりをより一層引き立ててくれるはずだ。できるだけシンプルに、醤油とカキのマリアージュを感じられる料理にしよう。

昔ながらの醤油造りを通じて、時間が生み出す物の価値を教えてくれた松中新治さん

豊前海一粒かき×松中醤油 『カキのうま醤油焼き』

材 料(2人分)

◎カキ … 8個(殻つき)
◎バター … 10g
◎酒 … 大さじ1
◎醤油(曽根の紫露)
 … 大さじ1
◎ネギ … 適宜
◎一味唐辛子 … 適宜

作り方

❶殻つきカキは膨らんだ方を下に持ち、綴じ目を手前に右上からカキナイフを挿し込み、フタを開いてむき身にする。
❷カキのむき身を水の中で振り洗い、殻くずや汚れを落とす。
❸フライパンにバターを入れ火にかけ、②を焼き、酒を加えてサッと煮た後、醤油を加えて手早く煮絡める。