さとうしょうこの地魚と醤油の旅
一本槍×大町醤油
いつも美味しい地魚料理を紹介してくれる佐藤彰子先生が県内各地の醤油蔵を訪ねる旅。今回は、北九州市若松区の『大町商店』を訪ね、芦屋の『一本槍』(ケンサキイカ)を、旨味豊かな九州特有の醤油で味付けした料理を紹介。
鮮度の高い『一本槍』には九州の醤油がよく合う
芦屋港から車で約10分。北九州市若松区竹並にやってきた。辺りは緑豊かな田畑に囲まれた農村地帯で、醤油蔵があるようには思えないが、畑の中の一本道を分け入っていくと「大町しょうゆ」の看板が見えてきた。出迎えてくれたのは大町商店代表の大町雅一さん。
「明治30年に曽祖父が、炭鉱景気を見込んで、今の若戸大橋付近に開業したのがはじまりです」。事務所の壁には醤油品評会で受賞した表彰状が多く飾られ、古いものは大正時代の日付も。「昔から地域に根ざした醤油で、多くは地元の料理店などで使われてきました。今でもうちの醤油を代々受け継いでいる店があります」と大町さん。実はこちらの醤油を知ったのは、芦屋町で70年の歴史を持つ料理店『味処大丸』で使われていたから。同店の宮﨑大樹さんは「先代から大町醤油の『若紫』をずっと使い続けています」と紹介してくれた。
「大町醤油の特長は〝塩角の取れたまろやかな味わい〟。塩分を抑え、旨味や醤油特有の香りをいかした、いわゆる『九州しょうゆ』と呼ばれる醤油です」。
醤油蔵の中を少し案内していただいた。醤油蔵には乳酸菌や酵母菌など、その蔵独特の菌が棲みついているというが、ここもやはり壁や天井まで菌の繁殖で黒々としている。蔵の中全体に漂うのは濃厚でまろやかなコクを感じさせる香りだ。
九州の醤油は甘味や旨味を加え、塩味を抑えたものが多く、そのバランスは各社それぞれの個性として楽しめる。『一本槍』のように、獲れたてがおいしい魚介はとくに、まったりと身に絡む甘味・旨味のある九州の醤油との相性が良い。せっかくなら、刺身だけでなく、醤油漬けや、醤油煮などにしてもおいしいのでぜひ試してみてほしい。
一本槍×大町醤油 『一本槍の醤油漬け』『一本槍の生姜醤油煮』
一本槍の醤油漬け
材 料(2人分)
◎一本槍 … 1ぱい
◎ウズラの卵黄 … 1個
(A)うまくち醤油 … 1カップ
(A)おろしショウガ … 大さじ1
作り方
①一本槍は胴とゲソに分け、内臓・口・目を取り除き、流水で洗う。
②ボールに(A)と①を入れ、10分程漬け込む。
③食べやすい大きさに切って、器に盛り、卵黄を添える。
一本槍の生姜醤油煮
材 料(2人分)
◎一本槍 … 1ぱい
◎小ネギの小口切り … 適量
(B)醤油漬けで残った(A)
… 1/2カップ
作り方
①鍋に(B)を入れて火にかけて煮詰め、食べやすい大きさに切った一本槍を加えてサッと煮絡める。
②器に盛り、小ネギをちらす。